Short Story

ショートストーリー

■8 《幻side》 『夢見る少女の宝物』

アイキャッチ

作:校條 春

「10.39」
 測定係の声に、周囲がざわめく。
「え、嘘でしょ」
「速すぎる」
「神速の西園寺」
「ってか日本記録じゃね……?」
 体育の授業で100m走を行っていた。
 ユナは身体を動かすことが大好きで、授業でもイベントでも一切手を抜いたことがない。そしていつも通り、その有り余る運動神経を見せつけ、注目を集めてしまっていた。
「ねぇ西園寺さん、陸上部に入らない!?」
「え」
 学校が終わると、いつの間にか待ち構えていた集団に囲まれる。
「いや、我が女子バレー部に!」「バスケ! バスケの方がいいでしょ西園寺さん!」「いいや、西園寺さんはバドミントンよね!」「テニス!」「卓球!」「水泳!」「ダンス!」「卓球!」
 学校中の運動部がこぞってユナに迫る。
「いや、あの、私はどこにも入部する気はなくて」
 ユナが断ろうとするも、その声は周囲の声にかき消される。
「くっ、かくなる上は……失礼!」
 ユナはとんでもないジャンプ力で集団の頭上を飛び、くるんと一回転して集団の外に着地する。
「ごめん!」
 そして脱兎のごとく走り出す。
「あ、逃げた!」「待ってぇ!」「我が部にー!」
 追ってくるが、ユナの機動力には誰も追いつけない。
 ユナはすぐに一団を撒き、校舎裏の階段の隅で身を潜めた。
「ふぅ……」
 一息つく。
 すると、階段の上から声がかかる。
「いい加減、どこかに入ってあげてもいいんじゃない?」
 そこにいたのは、ユナの友人だった。
「どうしてここが」
「いや、ユナのいきそうなとこぐらいわかるよ」
 友人は階段を下りて、ユナの隣に座る。
「皆、あんたのことかってるんだよ?」
「……なんか違う気がするんだよね。ピンとこないというか、きらめきが足りないというか、私の熱中する『何か』はそれじゃないというか」
「でた。夢見がちロマン病」
「え、やめてなにそれダサい」
「ユナがいっつも同じこと言うから、名前を付けてやったのだ。感謝するといい」
「じゃあもっとかわいい名前にしてよ」
「かわいいじゃん。夢見がちロマン病」
「嘘でしょ……」
 ふてくされて頬を膨らませながら、ユナは友人に訴える。
「他のネーミングセンスはかわいいのに」
「そう?」
「ポムちゃんはかわいいと思う」
 それは友人の飼っている愛犬の名前だった。
「ポムは私の宝物だから」
「さいですか」
 ユナは立ち上がって日差しの下まで歩くと、空を見上げる。
「……私にも何かある気がしてるんだよねぇ。宝物」
「いつか見つかるといいね」
「うん。何かきっかけさえあれば……例えば、失った前世の記憶を思い出す的なイベントとか起きれば……」
「うわ、夢見がちロマン病」
「だからそれやめろー!」

 その夜、ユナはファントムファイターとして目覚めることになるのだが、この時のユナはまだ知る由もない。

Official