■17 《幻side》 『落ちた者達』
作:校條 春
「おお!」
「すげー!」
「いいな……」
黄昏時。ワンダヒルの片隅で、トワイライトのチームメンバー何人かが集まり、動画を見て盛り上がっている。
「リーダーはどうっすか!」
その内の一人が、通りかかったライカを呼び止めた。
「ああ?」
「知ってます? これ!」
スマホの画面をぐいっとライカに近づける。
「ちけぇよ」
ライカがしぶしぶスマホ画面を見ると、そこではきらびやかな衣装を着た女性が歌って踊っていた。
「ソフィー・ベル! 力強くも透き通るような歌に、美しさと迫力のあるダンス、今大人気の
「……」
ライカは一瞬、心底嫌そうな顔をすると、すぐに目を離す。
「知らねぇ」
「ありゃー。リーダー、俗世に興味なさそうっすもんね」
「なんでそうなる」
「え、あるんすか」
ライカの眉間に青筋が立つ。
「そんなの見てる暇があるならファイトをしろ。だいたいお前、先月の戦績負け越しだろうが。お前のプレイは慎重すぎるんだよ。俺ら負け犬には負け犬の戦い方がある。もっと強気の、勝機を強引に掴むぐらいのプレイをだな――」
「あ! 新カードをデッキに入れるの忘れてた! 失礼します!」
ライカのヒートアップに己の危機を悟った団員は、一目散に駆けていった。
「ちっ……お前らも、くだらねぇもんに夢中になる時間があるならファイトをしろ」
「は、はいリーダー!」
集まっていた他の団員も散り散りになって、ファイトの準備を始める。
今日も、長い夜が始まる。
――夜が明け始める。
トワイライトのメンバーは夕暮れ時から集まり出し、夜の活動を主にしている。滞在時間は人それぞれ自由だが、長い時は、今日のように明け方までやっている人もいた。
解散した後、ライカは一人で山を下っていた。
野鳥のさえずりや木々のざわめきだけが聞こえる山道。
だが、ふもとまで降りて来た時、不意に声をかけられる。
「どうですか? 今の生活は」
ライカが振り向くと、サングラスをした女性が立っていた。
「なんだ、お前」
「あら、つれないですね。わざわざ挨拶だけでもと思ってきたのに」
女性はサングラスを外す。
「あなたも、現実の夢を見たのでしょう?」
「……」
ライカは忌々し気に目を細める。
さっきも見た顔だった。そして、ファントムファイターとして目覚めた後、夢の中で見た顔でもある。
「……ソフィー・ベル」
「ふふ、どうも。会えてうれしいわ、狐芝ライカ」
「失せろ。俺とお前はただの他人だ」
「冷めきってしまって、悲しいですね」
「現実の夢にでも感化されたか?」
「さて、どうでしょう」
睨むライカと、不気味に微笑むソフィー。
ライカは何かを確かめるように、質問する。
「退屈、しすぎたのか」
「……」
答えはない。
「……ふん。お前も、落ちたんだな」
ライカは興味を失ったように、ソフィーから目を離して歩き出す。その背中を、ソフィーはただ見つめていた。
静かな朝。
これ以降、この幻世界で二人が顔を合わせることはなかった。
