■15 《幻side》 『その出会いは(後編)』
作:校條 春
放課後を告げるチャイムが鳴る。
部活動に向かったり、委員会に集まったり、帰路についたり、遊びに行ったりと、人が散っていく。そんな例にもれず、アキナも放課後の予定を探っていた。
「カナミとクルミはこの後何か用事ある?」
「私は別にないけど」
「私もないよ」
「ならよかった。ヒカリが今日部活休みらしくてさ、朝からずっと『クルミさんとカナミさんの予定押さえておいてね、わかった?』ってしつこくて……自分で聞けばいいのに」
「はは、ヒカリちゃんらしいね」
「きっとアキナ君を信頼してるんだよ」
「そうかなぁ」
そうして四人は合流し、ゲームセンターにカラオケにと一通り遊んだ。夕日も沈んですっかり暗くなった帰り道、コンビニに寄っていこうとヒカリが言いだす。
「私、今すっごく肉まんの気分」
「お前、夕飯食べれなくなるぞ」
「お兄ちゃん、肉まんは別腹だから。なんならあんまんもピザまんもいけるし」
「それは食べすぎ。ほどほどにな」
「らじゃー!」
コンビニに到着すると、アキナはその脇を指さした。
「俺はそこで待ってるから、みんな荷物置いて見てきていいよ」
カナミとクルミが難色を示す。
「いや、別に荷物ぐらい大丈夫だよ。アキナも一緒にきたら?」
「そうだよ、せっかくなんだし」
「母さんのご飯があるから俺はいいの。それよりヒカリが買いすぎないよう、ちゃんと見張っててくれよ」
「そ。りょーかい。じゃあこれよろしく」
三人は荷物をアキナに預け、コンビニに入っていく。
「ヒカリちゃんいこっか」
「うん!」
「買い物は予算内にね」
「わかってるー!」
ヒカリはカナミとクルミの腕を掴んで上機嫌だ。
――しばらく、アキナは夜空を眺めていた。
空にはいつも通り、赤い月が昇っている。
と、そこに声がかかる。
「アキナ君、これ」
クルミだった。手に持った缶ジュースを差し出している。
「え、だから俺はいいのに」
「これぐらいなら夜ご飯に差し支えないでしょ。はい論破」
「ぐ……参りました。ありがとう、クルミ」
アキナは缶ジュースを受け取る。
「二人は?」
「まだ中にいるよ。ヒカリちゃんが悩みに悩んでて」
「大丈夫だろうなあいつ……」
「カナちゃんがついてるから大丈夫だよ」
言いながら、二人は缶ジュースを飲む。
赤い月が二人を照らす。
「……なぁ、クルミ」
「なあに?」
アキナはふと、本当にただ頭をよぎったことを口にする。
「俺たちって、いつどこで出会ったんだっけ」
「……」
答えはない。
「ああ、ごめん。変な話だったな」
「……ううん、いいよ」
「本当に気づいたらって感じで、はじめましてのことはぼんやりしてるんだよなぁ」
「そうなんだ。でもきっと……私達の出会いは特別だったんじゃないかな」
「だったら覚えてると思うんだけど……」
「実は、私は覚えてるよ」
「え!? 教えてくれよ!」
「うーん、だめ」
「なんで」
「思い出したら、壊れちゃうから」
「なにが?」
「……泡沫の夢が、かな」
「何かの比喩? どういう意味?」
「なーいしょ」
人差し指を口元に当てて、いたずらっぽく笑うクルミ。
アキナは釈然としなかったが、これ以上言及しても教えてはくれなさそうだったので、今回は諦めることにした。
「いつか思い出してやるからな」
「そっか……嬉しい」
クルミの笑顔は、その言葉とは裏腹に、どこか寂しそうだった。
少しして、カナミとヒカリが帰ってくる。
「ひゃっはりひははんにひふぁ」
口いっぱいにピザまんを頬張りながら満足そうに喋るヒカリ。
「食べ終わってから喋ること。あとしっかり噛むこと」
「ふぁーひ、ふぉーふぃふぁーふ」
「だからそのまま喋るなって!」
アキナとヒカリのやり取りを、カナミとクルミは笑って見ている。
「仲いいよね、あの二人」
「そうだね。カナちゃんと私も何かやっとく?」
「何かって?」
「仲良しアピール」
「誰にアピールするんだよ」
「わかんないけど、今が楽しかったらそれでいいじゃん!」
クルミはカナミの腕に抱き着いた。
「ちょ、姉貴!?」
「えへへ、カナちゃんだーいすき!」
「いや離れろって! さすがにコンビニ前でこれは恥ずかしいって!」
「やだよー!」
「姉貴―!!!」
こうして、今日も夜が更けていく。
そして明日になれば、またいつもの朝が来る。
ずっと、ずっと、同じ朝が。
幸せな日常を包んで、離さないように。
