■12 《幻side》 『二人の行路』
作:校條 春
「優勝は、黒崎ヘッドボルトだぁぁぁぁぁぁ!」
実況の叫びに続いて、高まった歓声が轟く。
タイゾウは安堵の息を吐き、届くはずのない天井を突くようにして、高らかと拳を上げた。
――夜。
熱に満ちていた会場も、今は静けさの中。
タイゾウが外に出ると、涼しい夜風が頬をなでた。
階段を降りたところで、見慣れた高級車を見つける。
「乗れ」
キョウマは端的にそう言うと、車の扉を開けた。
タイゾウが乗り込むと、すぐさまアクセルを踏んで走り出す。
「いつも律儀に迎えに来なくていいんだぞ。タクシーぐらい自分で呼べる」
「ついでだ。気にするな」
「嘘つけ。死ぬほど忙しいくせに、社長様」
「その呼び方はやめろ。いずれお前に返すものだ」
「……そうかよ」
それからしばらく、沈黙が続いた。
別に珍しいことではなかったが、二人の間に流れるその空気は、学生の頃の二人とは別物だった。
「優勝おめでとう」
不意に言葉を発したのはキョウマだ。
タイゾウは嬉しそうに笑って見せる。
「どうも。ただ、内容には反省点がいくつかあったよ。今日はトリガーの乗りがよかったから何とか勝てた。まだまだ精進しないとな」
「そうか、なら目的地変更だな。今日のファイトのデータを送れ、納得いくまで付き合おう」
キョウマが進路を変える。目的地は会社が持っているファイト場だ。
「いやお前は休め。朝からずっと働きっぱなしだろ」
「問題ない」
「あるって言ってんだ。自分のことぐらい自分で――」
「世界一になるんだろ!」
キョウマの語気は強かった。
「なら、他人のことなど気にするな。俺の頭脳も、体も、時間も、利用できるものは全て利用して進め」
「お前……」
「俺たちの目指す先へ繋がる道を、躊躇うな」
タイゾウは悔しそうに唇を噛むが、すぐに己の覚悟を改め、真剣な表情へと変わる。
「……わかった。お前の意見が欲しかったプレイがある。まとめておくから、着いたらすぐに検討しよう」
「もちろんだ」
キョウマはアクセルを強く踏む。
二人を乗せた車が、夜の道路を駆け抜ける。
その行路の先に、いつか夢見た宝があると信じて。
